お子さんのいらっしゃらないご夫婦から、
「自筆証書遺言でお互い“配偶者にすべての財産を相続させる”と書いておけば十分だと思ってそのようにしてきたが、本当に大丈夫なのか」
とご相談を受けたことがあります。
ご主人は高齢で、親族はすでに全員他界。相続人が妻だけというケースでした。
しかし、奥さまにはごきょうだいがいらっしゃいました。 この場合、まったく問題がないとは言い切れません。
第一に、亡くなる順序がご主人が必ず先と決まったわけではありません。旅行中に事故などで同時死亡ということだって、ありえます。その場合、同時死亡時のただし書きを加えておかないと、ご主人の財産は相続人ナシということになって、特別縁故者がみつからなければ国庫へ・・・・ということにもなりかねません。
また、稀な例ですが、こんなこともあります。
自分には兄弟がないと断言していらしたのですが、そのかたが成人されたのち、ご両親が、知人の子が遺児になっているのを見かねて養子縁組しておられ、戸籍を取得してみるとじつはご兄弟があったという事例。
ご兄弟には遺留分がありませんので、その場合でも遺言書があれば、奥さまに全財産を相続させることは可能です。
ただし、奥さまへの相続で相続税がかからないのは、「ご自身の法定相続分の範囲内、もしくは1億6千万円まで」です(平成23年3月現在)。
奥さまの法定相続分が3/4、残り1/4はご兄弟の法定相続分ということになりますと、遺産額によっては、1/4に対しては相続税がかかることになってしまいます。
それによく知られるように、自筆証書遺言では相続開始後、被相続人(ご主人)の生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍を郵送で取り寄せたのち、家庭裁判所に赴いて「検認」を受けなければ、銀行口座や不動産の名義変更ができません。
戸籍を集め終え検認を受けるまでに、たいていは数ヶ月かかりますので、ご家族の心理的負担や労力を考え、公正証書遺言にされることもご検討なさるとよいでしょう。